大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)223号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、引用例の記載事項の一部を誤認した結果、本願考案と引用例記載のユニツト家具との相違点及び共通点の認定並びに右相違点についての認定判断を誤り、ひいて、本願考案は、引用例に記載されたユニツト家具に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、右主張は、以下に説示するとおり、すべて理由がないものというべきである。

前示本願考案の要旨に成立に争いのない甲第一〇号証(昭和五六年一〇月二日付手続補正書)を総合すると、本願考案は、複数段の収納棚を構成するようにしたユニツト家具の改良に関する考案であつて、上下方向に配置した複数個の短寸箱ユニツトを箱ユニツトなどの家具構造体の側板を介して左右両側から挟持し、これら短寸箱ユニツトの上下位置、配置、設置個数などを任意に変えてレイアウトに変化をもたせて、ユニツト家具としての利用価値を高めるようにしたユニツト家具の提供を目的とし、本願考案の要旨のとおりの構成(明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)を採用したもので、右構成を採用したことにより、<1>短寸箱ユニツトの上下方向に形成された空間が、短寸箱ユニツトの天板、地板及び短寸箱ユニツトを左右から支える側板によつて完全に囲まれ、収納空間としての機能を果たし、収納能力を増大させることができ、<2>短寸箱ユニツト及び収納空間前面に、左右の側板を利用して扉を付設し、扉付ユニツト家具とすることも可能で、壁面などを露呈させず、インテリアに合つた構造とすることができ、<3>棚部の増減や配置替えなどを行う場合、短寸箱ユニツトそれ自体の設置個数、配置を自由に行うことができ、ユニツト家具全体の配置、レイアウトに適合した収納棚部を備えた収納棚を組み立てることができ、<4>短寸箱ユニツトを接続する相手方が家具構造体であるため、ダボ、ピンなどによる接続が手軽に行えるなどの作用効果を奏し得るものであること、本願考案の構成要素をなす「家具構造体の側板」については、明細書の実用新案登録請求の範囲に「箱ユニツトなどの家具構造体の側板」との文言記載があるのみであり、考案の詳細な説明の項に、「第3図示のものは一方を箱ユニツト30、他方を側板31Aとし、これら箱ユニツト30の側板31と別個の側板31Aの間に短寸箱ユニツト12……挟持したもので」との記述があり、右第3図には板体が示されていることからみて、箱ユニツトの側板に限定されるものではなく、箱ユニツトを含む家具構造体の側部を構成する板体のほか、家具構造体の側部を構成することのできる板体そのもの(右考案の詳細な説明において31Aで示される側板)をも指称するものであること、また、同じく、本願考案の構成要素をなす短寸箱ユニツトを家具構造体の二つの側板によつて「挟持する」とは、明細書の考案の詳細な説明の項中の「これら短寸箱ユニツト12を側板11、11に接続(列孔などのシステムピツチ孔を利用しての接続)してなる」(明細書第二頁第一六行ないし一八行)、「短寸箱ユニツトを接続する相手方は、側板、箱ユニツトなどの家具構造体であるため、ダボ、ピンなどによる接続が具合よく手軽に行え」(同第四頁第一一行ないし第一三行)との記載及び本願考案の願書添付の第1図ないし第3図の記載から、短寸箱ユニツトの左右に側板を配置して、短寸箱ユニツトと側板とを止め具(固定手段)によつて固定する態様を意味するものであることをそれぞれ認めることができる。他方、成立に争いのない甲第二号証(引用例)によれば、引用例には、平面T字形で、左右側面に支柱の正面側の溝3に嵌入されてユニツト自体を固定するためのレールを備えた段部12が形成され、右段部の後側側面に支柱に掛止めされた止め具に係止する孔14を具備した小寸法の箱型構造のユニツト及び角材2の左右より金属柱1が張り合わされ、各金属柱の壁面側(後面側)には止め具を係止するための孔5が等間隔に多数設けられ、正面側には溝3が設けられた右ユニツトを保持するための支柱並びに右ユニツトを上下方向に配置し、左右の支柱の任意の位置に止め具を介して固定することにより複数段の収納棚を支柱の間に形成したユニツト家具が記載されていることが認められ(右事実中、引用例に、複数段の収納棚を支柱の間に形成したユニツト家具が記載されていることは、原告の認めるところである。)、右事実に徴すれば、引用例には、本件審決認定のとおり、複数個の短寸箱ユニツトを上下方向に配置し、これら短寸箱ユニツトを左右の支柱を介して左右両側から挟持して複数段の収納棚を支柱の間に形成したユニツト家具が記載されているものと認めることができる。原告は、この点に関して、本件審決は、平面T字形の箱ユニツトを単に短寸箱ユニツトとしてのみ把握し、また、レールと溝との係合によりユニツトと支柱が係合するという設置関係の点を単に支柱を介しての挟持と速断したもので、右認定は誤りである旨主張するが、本願考案の要旨にいう「短寸箱ユニツト」という構成については、その明細書(前掲甲第一〇号証)の実用新案登録請求の範囲に格別の限定はなく、また、考案の詳細な説明の項の記載に照らしても、小寸法の箱型構造を有するユニツトという以上にその具体的形状、構造を限定するものではないから、引用例記載の箱ユニツトも右「短寸箱ユニツト」に包含されるものと解され、また、本願考案の要旨にいう「挟持」の技術的意味は前認定説示のとおりであるところ、引用例記載の箱ユニツトも前認定のとおりの接続具によつて左右の支柱に固定されており、支柱を介して挟持されているものと認められるのであるから、本件審決が引用例記載の箱ユニツトを短寸箱ユニツトと認定し、右ユニツトと支柱の設置関係を支柱を介して挟持されているものと認定した点に誤りはない。また、原告は、右主張事実を前提として、本願考案と引用例記載のユニツト家具とでは、基本となる箱ユニツトの構成、その支持手段の点で相違しており、本件審決の両者の相違点及び共通点についての前記認定は誤りである旨主張するが、原告の主張する前提事実を認めることができないことは前認定説示のとおりであつて、引用例記載の箱ユニツトは、本願考案の短寸箱ユニツトに含まれるものであり、また、両者は、短寸箱ユニツトを挟持するという保持の態様においても異なるところはないものというべく、叙上認定したところに基づき両者を対比すると、本願考案における家具構造体の側板も引用例記載のユニツト家具における支柱も、ともに物を載置するための短寸箱ユニツトを支持するための保持体であるという点では同じものであるから、両者は、複数個の短寸箱ユニツトを左右両側から挟持して複数段の収納棚を家具構造体の間に形成するようにした点で一致し、本願考案では短寸箱ユニツトを家具構造体の側板を介して挟持しているのに対し、引用例記載のユニツト家具においては箱ユニツトを支柱を介して挟持している点で相違しているものと認められ、したがつて、これと同旨の本件審決の本願考案と引用例記載のユニツト家具との相違点及び共通点の認定には誤りはなく、原告の右主張も採用することができない。

次に、原告は、本件審決は右相違点についての認定判断を誤つた旨主張するから、この点について検討するに、前認定説示のとおり、本願考案における側板も引用例記載のユニツト家具における支柱も、ともに短寸箱ユニツトの左右両側に位置してこれを挟持し、かつ、他の支柱及び短寸箱ユニツトと相まつて大きな家具を構成するという機能において差異がなく、また、成立に争いのない乙第一号証(実公昭五一―一九五三六号公告公報)、第二号証(実開昭四七―二三二五一号公開公報)、第三号証(実公昭五一―一九五三七号公告公報)、第四号証(実開昭四八―四七四三四号公開公報)及び第五号証(実公昭五一―一〇九一〇公告公報)によれば、組立家具において、物を載置したり、収納するためのユニツトを一対の側板で左右両側から挟持することは、本願考案の実用新案登録出願前周知の技術であることが認められるのであつて、以上の事実を勘案すると、引用例記載のユニツト家具の支柱を側板に代えることは、当業者が極めて容易に考えられる程度のことで、本件審決がこの点に関し、当業者ならば格別考案力を要することなくなし得るものであるとした認定判断に誤りがあるとはいえない。原告は、本願考案は、短寸箱ユニツトを側板で挟持することにより、短寸箱ユニツトの左右を開放しないで、側板でその左右を囲み、短寸箱ユニツトの上下方向の空間に独立した収納空間を確保することができ、また、短寸箱ユニツトの左右に配置した側板を利用して短寸箱ユニツトの前面及び前記した独立した収納空間の前面に扉を付設することができ、これによつて壁面などを露呈させず、インテリアに合つた構造とすることができる等引用例記載のユニツト家具にはない諸効果を奏することができ、本願考案の家具構造体の側板と引用例記載のユニツト家具の支柱とは、構造的にも、また、位置と作用効果の点からも類似するものとは認められない旨主張するところ、本願考案が右主張に係る効果を奏することは前認定説示のとおり認められることから、その限りにおいて本件審決が「その効果は引用例に記載されたものと格別異なるものと認められない。」と認定判断した点は本願考案の奏する効果の一部を誤認したものといわざるを得ないが、前認定説示のとおり、本願考案における家具構造体の側板と引用例記載のユニツト家具の支柱とは、短寸箱ユニツトを挟持し、かつ、家具構造体の一部を構成するという点で類似のものといえるばかりか、右効果も、内部に棚板を有する箱体等の側板が本来有している効果にすぎず、前認定の周知技術の適用により通常予測し得る範囲を出るものとはいえないから、結局、右誤りは本件審決の本願考案と引用例記載のユニツト家具との相違点についての認定判断の前記結論に影響を及ぼすものとはいえず、したがつて、原告の右主張は採用することができない。

そうであるとすれば、本件審決には、原告主張の違法の点はなく、本件審決の認定判断はその結論において正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

複数個の短寸箱ユニツトを、上下方向に配置し、これら短寸箱ユニツトを箱ユニツトなどの家具構造体の側板を介し左右両側から挟持して複数段の収納棚を前記家具構造体の間に形成するようにしてなることを特徴とするユニツト家具。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

<省略>

<省略>

(以下省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!